雲に隠れた日の光。

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 其の後の西の御所は、何事も無かったかの様に、公務が進んでいた。只、其処にいる者全てに覇気等無く、淡々と事を運んで行く姿。一切の笑みも零れない。時折、忌々しげに、又蔑む様に監視する者へ視線を送る皇家の者達の荒んだ表情が見られた。 「――帝、御気分は如何に御座いまするか」  声に、格子の向こうへと振り返った雅。其処には、光炎と其れへ従う者達が数名武装した姿で佇んでいた。雅は、冷たい表情で光炎を見据えている。 「狭いけれど、思ったより整えられておりますね」  静かに言う雅。其処は、牢ではあるが部屋の様に美しく整えられていた。此処は光炎の祖父母の代で造られた簡素な別宅であった。元は病に伏した祖父の為、祖母が依頼したもので此の別宅の存在は殆どの者に記憶が無く、此の為に牢として改築するにも細心の注意をはらって仕上げさせたのだ。外見は、古く汚い空き家にしか見えない様にされてある。 「当然です。帝の御身は大切なのですから」 「まぁ……恐ろしい程の皮肉ね」  雅は、冷たい笑みを浮かべた。 「本心に御座います……さて、お願いに御座いまする。私共の願いを、東の帝へお伝え下さい」  そう言いつつ、格子の間より雅へ差し出した書状。受け取った雅は、其れを広げ中を確認していくうちに身を震えさせ、表情を険しくさせる。 「こんな内容……何を考えているのです!此れでは、錦が命を懸け東へ向かった事全てを無駄にします!」  雅が此の状況にて、初めて怒りの感情をさらけ出した。光炎は手に持つ笏で笑みが溢れる口元を覆う。
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