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一方の東の国。桜も散り、緑が濃くなってきた爽やかな季節。現東の后妃、錦を迎えて一年が来ようとしていた。其の或善き日、東の帝一刀は従兄弟である久遠と共に西への外交に向かう馬車へ乗っていた。其の目的は久遠と西の姫、葵の結納の儀である。一刀と錦の時は、互いへの警戒と交流が薄い事もあり、物の行来だけであったが現在は東西の帝による外交も行われる程に交流が盛んとなった事も理由の一つだった。きらびやかな馬車へ積まれた金子、豪華な品々。勿論、護衛はかなり多くを率いてのものだ。其の派手な一行は、東で多くの歓声の中見送られた。西の都でも、其の馬車を今か今かと待ちわびている民達が集まっているのは言うまでもなく。
そんな馬車の中は、一刀と久遠が向かい合い。両側には護衛の陽炎と白夜。錦の尽力あって、長年の蟠りも消えて良好な間柄とはなったが、実は此の二人、元より共通する嗜好の会話も此れと言って無いのだ。馬車に乗り込み、賑やかな歓声が外で響くが、馬車内は何とも静かな空間。陽炎と白夜も息苦しさを感じる程であった。
「――そう言えば、今回葵殿とお前は初めて顔を合わせるな」
一刀が漸く此の空間で声を出したのだ。久遠は軽く頭を下げる。
「はい。文はやり取りをしておりましたが……」
少し緊張した面持ちの久遠。一刀はと言うと、錦との婚姻以降西への外交に出向いた際に一度顔合わせをしているのだ。錦が語っていたように、おっとりとした愛らしい姫であると印象を残していた。
「どうだ、気が合いそうか」
少々、気遣う声。久遠の好みは一刀には全くわからない。色めいた噂を耳にする事は其れなりにあったが、久遠も又一刀と同じく帝位争いの影響で己の伴侶とする者には慎重であったもので。久遠は一刀へ、少し言葉を探して。
「は。流石西の姫ですな……教養はやはり高い様で戸惑いを覚える程です。印象としては、良くあります」
久遠の言葉に、風向きは幾分か良い様だと取り敢えず安堵した一刀。
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