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「一刀……やはり、極刑を……?」
一刀は神妙な表情で、錦より視線を反らした。勿論、錦も事の大きさ、光炎と、彼に付いた者達の罪の重さは理解している。此ればかりはと、錦の言葉も其れ以上は続かなかった。一刀は、深い溜め息の後徐に口を開く。
「事は深刻だ。幸い此方に、命を落とした者はいない。此れがどう左右するかだ……此れよりの国交、まだ潜む西の保守派の心象へも大きな影響があるだろう。此方も、安易に強気には出られぬ……だが、東の保守派が極刑をと憤る可能性もあるのだ」
錦へ、状況を話す一刀。錦は息を飲んだ。此処東でも、西の全てを受け入れられぬ者も勿論存在する。一刀と、錦の婚姻には未だに不満に思う者もいるというのは事実なのだ。
「どちらにしても、俺の一存では決められぬ……当然だが、中でも重症を負った久遠の意見と、彼奴に付く者の意見を重視する事となる」
錦は頷く。傷付けられた東の武官、酷い傷を負った久遠や、不安を与えられた其の身内の心情は勿論大切なのだから。
「其れが、一番大切だね……」
悲しい事ではあるが、関わった西の者達も覚悟の上だろう。せめて、其の覚悟は持っていて欲しいと。どんな決定があろうとも、きっと時雨と纒も受け止める事だろう。
長く両親や姉に守られ、大切に置かれていた錦。其処は常しえに、優しい空間であった。しかし、外へ飛び出し一刀と出会った事により多くの事を見て、知ってゆく。其の中には、身を引き裂く程の苦しみや悲しみも在るのだと言うこと、そして同じ程の歓喜も。けれど、其れも日が登り落ちる様に、寒い冬が何れ暖かな春を迎える様に、人の生きる道も又、無常であるのだと。
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