生まれ変わる病

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翌朝、夜永は譲ってもらったボロボロの車椅子にミカドを乗せて宿を出た。 慣れない車椅子の操縦に苦戦しながらも、夜永は朝の道を抜けてゆく。鱗まみれの脚が見えないようにミカドの下半身は布で隠しているが、この気温では暑そうだ。見下ろした先に見えるうなじに、うっすらと汗が滲んでいる。 早朝に出たおかげで人通りは少ない。なるべく日陰になっている場所を選びながら、夜永はミカドに声をかける。 「海、見れると良いな」 「うん」 ミカドは小さく答える。目が覚めてからずっとこうだった。やっと海が見れるかもしれないという事実に緊張しているのだろうか。それとも、いよいよ具合が悪くなってきたのだろうか。 「訊いてもいいか?」 「何?」 「何で生まれ変わる為に、海を見る必要があるんだ?」 胡乱気に顔が上がり、ミカドがこちらを見上げる。気だるげな目は、単に暑さにやられているだけのようにも見えた。 「内緒」 そっけなく言って、ミカドは再び俯く。どうやらこれ以上話す気はなさそうだ。 夜永は少しむくれながらも、黙って車椅子を押し続けた。 電車を乗り継ぎ、延々と歩き続け、目的地に着く頃には既に日が暮れてしまっていた。 車椅子を押し続けていた夜永は勿論、座っているだけのミカドも疲れたようだった。見慣れない視界の低さ、体に伝わり続ける振動は、きっと想像以上に負担がかかるのだろう。 「大丈夫か? 少し休むか?」 「僕は大丈夫。君の方が疲れるでしょ。……それに、もう少しだから」 それならいいけど、と返して夜永は前を向く。今通っている森を抜ければ海があると聞いているのだが、果たして本当だろうか。夜の森はいくらライトを持っているとはいえ見通しが悪く、でこぼこの道に何度も車輪をとられそうになる。 お互い励ましあい、いつまで続くかわからない森を歩き続ける。時折聞こえてくる不気味な鳥の鳴き声を気味悪く思いながら、永遠にも思える時間に辟易してきた頃、不意にミカドが声を上げた。 「明るい」 驚いて目を凝らしてみれば、ミカドの視線の先の木々が一際明るく照らされていることに気付いた。森の終わりが近付いてきたのだろう。 夜永はミカドと顔を見合わせ、力一杯車椅子を押して走り出した。根っこだらけの歪な道が煩わしい。はやる気持ちを押さえつけ、そしてようやく森を抜けた時、その先にあった光景に息を呑む。
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