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「足が痛いのか? 医者を呼ぼうか?」
夜永は優しく話しかけたが、少年は何か思いつめたような顔で夜永に縋り付いた。突然のことに身を引く夜永に、少年は噛みつくように言う。
「お願いだ。僕を匿って!」
「はぁ!?」
「このまま病院に居る訳にはいかないんだ。早く! 誰かに見つかる前に!」
予想外の展開に夜永は目を白黒させた。一体全体何の話だ。混乱のまま少年を見下ろしていると、ふとあることに気付く。少年の服が不自然に土で汚れ、おまけにあちこちが擦れていたのだ。
ここで夜永はピンと来る。さてはコイツ、病室の窓から脱走したな?
「駄目だ! 病室に戻れ!」
「嫌だ! 僕には行きたいところがあるんだ!」
夜永の絶叫にも少年はたじろがない。むしろ更ににじり寄られてしまった。
どうしたものか、と夜永は悩む。患者を病院から連れ出すだなんて絶対にマズイ。しかしこの少年がそう簡単に諦めてくれるようにも思えなかった。
そんな夜永の苦悩にトドメを刺したのは、震えた小さな声。
「お願いだよ……。君しか頼れる人が居ないんだ」
少年の顔が泣きそうに歪む。そんな顔をされてしまえば夜永は何も言えなかった。つまるところ夜永は泣き顔に弱かったのだ。
ふと病院の方が騒がしくなってきたことに気付く。少年の脱走がばれたのだろう。このままではすぐに見つかってしまう。
「……あー、もう、わかったよ!」
なんだか面倒臭くなってしまって、夜永はヤケになって叫ぶと少年をおぶさるのだった。
「君のことは聞いたことがあるんだ。ヨナガ君、だよね?」
少年の問いに、夜永は目を丸くする。
結局あの後、夜永は少年を自宅に運んだ。病院から脱走した患者を院長の家に匿うだなんて本末転倒のようだが、どうせその院長は滅多に帰ってこないのだ、許してほしい。ここしか安全な場所は知らないんだと言う夜永に、少年はおかしそうに笑って承諾した。
少年は礼もそこそこに足を引きずりながら夜永の部屋に入り込むと、勝手に人のベッドの上にダイブした。先程まで泣きそうになっていたくせに、そのふてぶてしさに脱帽する。
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