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素泊まりの安いボロ宿で、夜永とミカドは身を寄せ合う。
いくら夜永もミカドも沢山の貯金があったとはいえ、所詮は高校生の金だ。節約できるところは節約しておきたい。しかしいつまで貯金がもつかはわからない。
そんな不安に、今日は更に新たな憂欝の種ができてしまった。
「宿の人が古い車椅子を譲ってくれるって。昔お祖父さんが使っていたみたいだ。親切な人だね。一時期はどうなるかと思ったけれど、これで移動の問題は解決した」
夜永の憂欝を余所に、ミカドは嬉しそうに部屋の隅に置かれた車椅子を見やる。なんでもないように言うミカドが憎たらしかった。どうして彼はそんなに明るいのだろう。夜永は今にも泣きだしそうだというのに。
夜永はミカドの足を見る。骨ばった細い脚はビッシリと鱗に覆われ、 肉がドロドロに溶けて、混ざり合って、完全にくっつきあってしまっていた。
そう、あの夜見た脚のように。
「そんな顔しないでくれよ。こんな病気になってしまったことは恨んでいるけれど、この鱗のことは割と気に入っているんだ」
馬鹿らしいことをのたまったミカドを睨みつければ、あははと呑気な笑いが返ってくる。
「だって、綺麗だろ?」
思いがけない言葉に、夜永は絶句した。
ミカドはそんな夜永をクスリと笑って、自身の脚を優しく撫でる。
「明かりに照らされるとね、鈍色が光を吸い込んで、濡れたようにぬらぬらと光るんだ。ほら、今も光っているだろう? 少しグロテスクで、醜くて、それでいて目が離せない。僕はこれがこの世で最も美しい光景だと思っているよ」
夜永はミカドの脚を食い入るように見る。鱗だらけの脚。人間のものとは思えない、異常な肌。
あの夜見た脚が脳裏にちらつく。月明かりに照らされた、酷く不気味な脚。それが目の前のミカドの脚と重なる。厭わしい。気持ちが悪い。見てられない。そのくせ、
そのくせ、どうしようもなく惹かれてしまう美しい脚。
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