第一首 唐揚げ

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第一首 唐揚げ

    1 「・・・・・(鶏の身も) ・・・・・・・(鍋をくぐれば) ・・・・・(化けて出る) ・・・・・・・(飯と食らへば) ・・・・・・・(頬も落ちんと)」  隣で現代のおれが読解不可能(どっかいふかのう)な短歌を一首()む着物姿の女児は、先ほど、おれが作った唐揚げを全て頬張り、満面の笑みを見せてくれた。 「おいみさと、わちしの顔に、なにがある。その目わちしを、食わんかのよう。」  いや、そんな目で見ていたつもりはないんだが……。  …………それにしてもこいつ——現代の言葉をある程度覚えてはいるものの、短歌調で話す癖は治らないらしい。  おれの作った飯をあんなに微笑みながら食べてくれたこと自体は、喜ばしい話ではあるのだが、感想が全て短歌というのが(いささ)()しい。  まぁ間違いなく、高い評価を下してくれているのだろうけれど……。———しっかし、具体的な内容がさっぱりだ。  はぁ、と一つ嘆息(たんそく)(こぼ)し、こんなひとときを送ることになったキッカケを、おれは一人、思い返す————。
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