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風音――それが“今の私”の名前だ。
あの施設に、あの地獄に行った時に、私の名前は奪われた。
名無しとなった私に――だけど目の前にいる“私の母親”……風歌さんは。
自分の名前の一部を私にくれて――私は『風音』という人間に生まれ変わった。
それはとても……とても嬉しかった。
私に新しい名前をくれて、私の存在を喜んでくれたのだから。
この世界にいても良いと、言ってくれたのだから。
だから私はこの人を――母を裏切る気はない。
そも、私は一度死んだ身だ――今更何の不満があろうか。
この私を、死んだ私を蘇らせてくれたのは他の誰でもない――風歌さんだ。
……『お母さん』と呼んだのはほんの数回だけど。
「えーっと、反抗期ってどうやれば直るんだっけ。説教? それとも放置? ……ヤバイ、全然分からない」
いつまでも他人行儀な“娘”が『反抗期』に入ったと思い込んでいる“母親”。
いや、実際のところ、反抗する気なんかこれっぽっちもないのだけど。
でも私の心とは、思考とは正反対に、この身体はあの人との距離を空けてしまう。
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