1人が本棚に入れています
本棚に追加
「こ、これは……」
「ははは、さすがは怪盗マリー。良い目をしている」
背後から聞き覚えのある男の声。振り返ると、全身ずぶ濡れの男が立っていた。トレードマークであるグレーのコートと中折れ帽も隙間なく濡れている。そんな状態でありながら、立ち姿はスマート。そして、表情にも笑みが浮かんでいた。
「高円寺団五郎……」
彼こそが件の名探偵である。
「いやあ、こんなこともあろうかと宝石を偽物にすり替えておいてよかった。完全に引っかかっていましたよ」
「クッ……」
マリーは先ほどまで浮かべていた勝利の笑みを怒りの表情に変え、偽物の宝石を地面に投げ捨てる。
「どうやってここまで?」
「いや、こんなこともあろうかとね、宝石に発信機を仕込んでいたんですよ。後はまあ泳いで」
「およ……? 一番近い港からでも100キロは離れているはずよ?」
「まあ、こんなこともあろうかとスイミングクラブには通ってましたんでね」
眩暈がする、とばかりに額を抑えるマリー。
「怪盗マリーのアジト発見となれば、これは手柄が増えてしまいました」
「くっ、でも、一人で来たところで、私を捕まえられるかしら?」
そう、マリーは身のこなしに自信を持っていた。
最初のコメントを投稿しよう!