こんなこともあろうかと

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 伊達にアクロバティックな盗みを繰り返してはいない。  だが、探偵の顔から笑みが崩れる事はない。 「はは、大丈夫。こんなこともあろうかと、事前に警察には連絡しました。今頃発信機の電波を追って警官がこちらに向かっていますよ」 「え、あの富豪は? 宝石持ってる事、バレちゃまずいんじゃ?」 「その通り。この高円寺、いかな事情があろうとも悪には加担しません」 「はあ?」  思い切り宝石の護衛をしていた男のセリフとは思えず、マリーの口から間抜けな声が漏れた。 「こんなこともあろうかと、他の罪もいくつか警察には匂わせておきました。全て発覚となれば、彼は存命中二度と外に出てくることはないでしょう」 「ひ……酷い……」 「それに、こんなこともあろうかと、前金で半額は頂いてました。赤字じゃない」 「……最低」 「いやぁ……それほどでも」  断じて褒めてない。  マリーは声を荒げたい衝動をどうにかこらえた。  ここで突っ込みでも入れようものなら、益々高円寺団五郎のペースになってしまう。 「そ……そんなことどうでも良いのよ。私は捕まらないわよ」 「とはいっても、この状況ではあなたが不利ですよ」 「そうかしら」  マリーは履いていたスカートの裾をまくる。     
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