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彼はいつもと変わらぬ優しい口調でマリーに語り掛け始めた。
「貴方に怪盗は似合わない。無理をして生きる必要はないんですよ」
「私は別に……」
高円寺団五郎は静かに首を左右に振った。
「こんなこともあろうかと、以前からひそかに調べていました」
マリーの目が驚きで見開かれる。
「小学校の頃、あなたは読書が好きな、内向的な少女だった。家庭も円満で非の打ち所のない幸せな家族と言うやつです。将来の夢は、暖かな家庭を作るためにお嫁さんになること」
「……なんで?」
マリーは女怪盗になるときに過去を消した。
もう彼女の記録はどこにも残っていないはずだった。
高円寺団五郎の言葉は続く。
「中学校の頃、あなたのお姉さんが事故で亡くなった。家族でも自慢の才媛だった彼女を失ったことで、家族の歯車が噛み合わなくなった。崩壊のきっかけはお父さんの浮気です。それを機にあなたは転がり落ちる様に不幸のどん底へと進んでいく。虐待、放置、離婚。次第にあなたは家族を憎むようになった」
マリーの目に涙が浮かんだ。忘れたと思っていたあの日の事は、彼女の胸にまだ居座っていた。
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