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「どん底の中で、もともと手先が器用だったあなたはスリを働くようになる。天狗になっていたあなたの技をいとも簡単に見破ったのがあなたの師匠、怪盗五京面相です。あらゆる怪盗の頂点に立つとまで言われた伝説の怪盗の教えを、あなたはたちまちのうちに自分の物へとしていった。やがて五京面相の引退と共にあなたは独り立ちした。世間を騒がせる女怪盗マリーの誕生です。そして、今に至る」
「くっ、どうしてそれを……」
「探偵を侮ってはいけません。こんなこともあろうかと、調べはついているんですよ。丸井真理さん」
高円寺団五郎の口から出た名前。
それはとうに捨てたはずのマリーの本名だった。
その名前を聞かされた時、彼女は自らの心にひびが入る音を確かに聞いた。
思わず砂の上に膝をつくマリー。
「いけませんね」
「え?」
「怪盗たるもの、いかなる場合でも諦めてはいけない。そう教えられたはずです」
マリーを送り出す直前、最後に受けた教えだった。
彼女は心の中で師匠に詫びる他なかった。
「恥ずかしい弟子だわ」
「そんなことありません。あなたはよくやって来たではないですか。怪盗として世間を十分に騒がせ、人々の注目を集めました」
「でも、結局は捕まったわ……」
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