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この一族の中で、業を持たぬ者は殆どいない。どんな業でもよかった。ありふれた水逢、風呼、雷遷――ある日突然力が使えるようになるのではと、何度夢見たことか分からない。散々世話になっておきながらこの体たらく、と何度も自分を責めたが、それでも事実が覆ることなどなかった。
思案にふける志月を尻目に、どこか遠い目で、劉は重々しく口を開いた。
「……謙虚なものだな。この家に色濃く染まっていながら――恐ろしいほど高慢でない」
志月の鼻筋に、劉の唇が一瞬だけ触れた。
男を匂わせる喉が軽く上下する。
「ますます気に入った」
志月は呆然としていた。
劉はそんな志月を見て喉の奥で笑い、ソファへと戻って行った。
(……! こちらが油断していればあの男はまた急に……!)
はっと我に返った志月は、怒りに任せて服の裾で鼻筋をぐいぐいと拭う。
志月は下唇を噛み、しばらくの辛抱だ、もうこの男の前で隙は見せまいと心の奥で誓うのだった。
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