毎朝三十分

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 駐輪場に自転車を置いてチェーンを掛け、カバンの荷紐を解いて荷台に巻きつける。火照った体を冷やさないうちに校舎へと駆け込んだ。  はっはっと軽く息が上がりながら三階まで階段を上がり、誰もいない教室に入る。  教室の静寂さと寒さから身震いをした。  僕の机は窓際の一番前。冬の今は日差しが差し込んで暖かいけど、夏は地獄。日差しにジリジリと焼かれる。  机の右のフックにカバンをかけて、教壇上の時計を確認した。 「やべっ。あと五分もない!」  七時前には行こうと廊下を軽く走った。この時間にわざわざ教室に来る先生はいないので怒られることはなかった。  僕の通う赤麦中学校は一年が一階、二年は三階、三年が職員室があるからというよく分からない理由で二階になっている。  花子さんと会ったのは二階の廊下突き当たりの男子トイレだった。 「花子さん、おはようございます。居ますか?」 「居るよ。毎日こんな早く、よく来るよね。わたしと会ってから皆勤賞じゃん」  ふふっと楽しそうな笑い声が二つある個室の内、窓側の方からいつも聞こえる。  花子さんの姿を見たのは最初の一回だけ。出会ったのは一年の九月中頃で、一年以上が過ぎているのに未だに花子さんのことを何も知らない。  忘れもしない、花子さんと出会う一年前の前日、僕は宿題をする前に寝てしまった。忘れたと先生に言えなくて早く学校に行って宿題を教室でしていた。引っ込み思案でおまけにビビりな僕は先生にバレたらまずいと思って廊下の電気を付けることが出来ずにいた。
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