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 妹に恋人ができた。  妹は美人というわけではないが明るくて活発で笑顔の多い愛嬌のある子だ。男女ともに友人が多く、周囲の笑顔も絶えない、そんな子だ。  そんな妹の彼氏は背が高くてがっしりとした俺とは正反対のタイプだった。俺はといえば勉強しか取り柄がなくて、というのもスポーツなんかは苦手で目立つような容姿も背格好もなく交友関係なんて限られて来るしこれといった才能もない。だから勉強くらいは頑張ってきたわけだ。そんな俺とは真逆の男だ。別に俺は妹と仲が悪いわけでもないから、いい人と巡り会えて良かったと素直に思っていた。  彼はいい人だった。妹のことをすごく好きだったし素直で優しい子だった。お兄さん、と俺を呼び、懐いてくれる。祝福する以外の選択肢があるものか。  そんな彼が俺を訪ねてきた。両親が留守の中、妹も友達と遊びに行くと言った日のことだ。まだ妹は帰らないと伝えるとお兄さんに会いにきた、と。いつもと違う神妙な表情だったのでつい部屋に上げてしまった。  それから彼は自分がいかに恋人を好きでいるか語った。完全に惚気だ。妹も彼もバカップルという言葉が非常にふさわしい。いかに恋人が優れ、自分がどれだけ好きかを誰彼問わず語ったりする。似た者同士といえば聞こえはいいが聞かされる身にもなってほしい。  実は付き合ったことがないと彼が言った。驚いた。すごくモテるタイプでもないと思っていたが、何人かとの交際経験はあるものだと思っていた。それを妹が初めての恋人だなんて。だからどうしていいかわからない。傷つけたくない。別れたくない。本当に好きなんだ。惚気た話を聞き流していると彼は俺の肩を掴む。  だから練習させてくれと。俺とは違う逞しい腕をふりはらえるわけもなかった。  多分きっと誰にも話せない。話してはいけないことだと思う。
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