彼氏

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彼氏

 中学生の頃、いじめられてた。  理由は生意気だからと先輩に。先輩が卒業するとぱったりとなくなったのだけど、その頃には自尊心はボロボロだったし人間不信で恋愛はおろか友達すら少なく、勉強なんて集中できるわけもなかった。  それでも高校生になるまでにはそれなりに良くなっていた。高校生になると気になる子が出来た。隣のクラスの女の子で明るくて笑顔の素敵な子だ。友達も多くてお喋りで、人の輪の中心にいるような子。キラキラして見えた。なんやかんやと親しくなった後、告白された。もちろん受け入れた。夢みたいだと思った。とても嬉しかった。  こうして好きな人が初めての恋人という奇跡のような状態になれた。だが、思ってたよりは良くなかった。不安だった。常に。恋人にどう接していいのか正解がわからなかったし誰かと比べられてるのではないかと思うと泣きそうになる。 「私、あなたのこと大好き。あなたとなら学校も遊園地もお気に入りのカフェも近くのコンビニも楽しいんだもの」  彼女がそう言って笑って手を握ってくれると心臓が痛くなるくらい幸せだった。僕の人生において彼女以上の人には出会えないだろうと確信めいた何かがあった。  だから廊下で僕の親友と笑い合っている彼女を見て背筋がひやりとした。彼女はノートをたくさん抱えていて、その半分を親友が持っているようだった。若干の焦りを感じながら二人に近づいて声をかける。 「大変そうだね。僕が持つよ」 「いいよ、このくらい平気だから」 「ううん、半分だけでも…」 「あ」  ばさり。彼女が持っていたノートが床に散らばる。ああ、もう。と呆れたような声を上げる彼女が笑う。 「天然っていうか、おっちょこちょいっていうか、ふふ、そういうとこあるよね」 「それなー、中学の時からこんなんだぜこいつ」 「はは、いいなぁ、見てみたい。可愛いんだろうな」 「今よりはな。背も低かったしひょろかったし」  ノートを拾いながら彼女たちが笑い合う。それがなんだか未来の姿に見えて死にたくなった。  僕はどうしても君を手放せないらしい。不安にかられて焦燥感に襲われて神様に間違ってると言われても多分気付けなかった。  彼女の兄と関係を持ってしばらく経ったとき、言い訳のできない場面を彼女に見られた。呆然とした彼女が掠れた声で何してるの、とだけ言った。
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