彼氏

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 何を言えばいいか考えもしないまま立ち上がり、彼女のそばによると逃げられた。 「気持ち悪い。触らないで。頭おかしいんじゃないの」  走り去る彼女は心底侮蔑したような目をしていた。  それでも朝がやってきて学校があって彼女がいる。いつも親しげにしている二人が話しもしないから周囲からは心配された。喧嘩したの。どうしたの。何があったの。誰にも話せるわけがなかった。 「彼女が話しもしてくれないんです。どうしたらいいかわからない。一生このままならもう死んでしまいたい」  話せる相手はやっぱり彼女の兄だけだった。 「俺もまともに口きいてもらえてないよ。話したくない、顔も見たくない、気持ち悪いって。当たり前だけど。大学卒業したら出て行くから、それまでもあんまり家にいないようにするって連絡したらまぁ…親が心配しないような対応はしてくれてる」  彼の話を聞いてもほんの少しも罪悪感はなかった。彼が悪いとは思わなかったが自分が悪いとも思えなかった。だって彼女がこんなにも好きなだけだ。  自分がもしかしたらおかしいと気付いたのは大人になってからだ。 「話したくない。あなたの顔も見たくない。ねぇ、だって、あなたは兄の尻の穴を弄り回した手で私の手を握ってたの? 私とキスした口で一体何をしたの? 気持ち悪い。同じ空気すら吸いたくない。安心してよ。誰にも話してないから」  思わず彼女の腕を握った。話を聞いて欲しかった。ずっとずっと彼女が、彼女だけが好きだった。こんな風に終わりたくなかった。強引に腕を振り払われて泣きじゃくりながら走り去る彼女に考え直して欲しいとだけ言葉をぶつけた。 「止めてよ気持ち悪い! 触らないで!」
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