思い出したこと

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思い出したこと

会社で野球チームのマネージャーをしていた頃の話です 今日から市の秋のリーグ戦の初戦の日 近くに住んでいた監督に球場に乗せて行ってもらうときの話です 今、田舎の母親があぶないんだょ 行かなくていいんですか? この前、行ったんだけど そう言ってしばらく黙っていらっしゃいました しばらくして ぼくが母親に対する思いは多分、君が持つ 母親への愛情とは違うと思うんだよね ぼくは兄貴がいるんだけどぼくの下に弟が二人いるんだ 兄貴とぼくは父親が一緒なんだけど下の弟は二人ともそれぞれ父親が違うんだよ 母親は出稼ぎに出ていて 帰ってくると腹が大きいんだょ 下の弟はぼくが名前をつけて世話をして育てたんだ なんだか複雑でさ 母親なんだけど他のうちとは違ってたしモヤモヤしてた ある日、ぼくの父親 はどこにいるのかと聞いたんだよ そしたら富山のホテルにいた人で名前も聞いた 居ても立っても居られない気持ちになって会いに行ったんだ その人は支配人としてまだいたよ 名乗って会ってくれるかわからなかったけど会いたかった そうしたら会ってくれたんだよ とてもいい人だった ぼくは会って何かしてもらおうとか文句を言おうとか 無かったんだ ただどういう人なのか会って見たかった だから会って納得して帰って来た そんなことがあった それからぼくは中卒で働きはじめたんだ ダイヤモンドレーン(ボーリング場)の機械屋として働いていたんだけど縁があってこの会社に入ったんだ だから今でも母親への恨みなのか、苦労させられたからなのか、学校も満足に行かせてもらえなかったからなのかなんなのか なかなか深い愛情がもてなくてさ だからあぶないと聞いてもすっ飛んで行けないんだよ ごめんね こんな事、話してさ もう、球場に着くね リーグ戦勝てるかな? 私はなぜ、当時、監督がこんなことを若い私に話されたのかわかりませんでした でも今になるときっと苦しい胸の内を話したかったんだと思います 私は誰にもその話をしないまま何十年と経ちました 昨年、実の父親を亡くして思い出したんです きっとそれぞれみんないろんな気持ちでこの日を迎えているんだろうなと 監督、今でもお元気ですかね
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