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「本棚の上の段に並んでいるのは全て音楽の雑誌ですよね?下の段に入っているファイルは楽譜ですか?」
「うん。今まで作った曲が全部入ってる」
「大河さんが作った曲だけでこんなにあるんですか?」
「事前にファイルだけ棚一段分買ってあるだけで右三つはまだ空っぽ」
「それでも多いですね。これではCDになっていない曲が大半ですよね?」
「そうだと思うよ。まず他のふたりに見せて反応が悪かったら三人で演奏することも無いし」
「何だか、もったいないですね。その埋もれた曲の中に名曲になる曲があるかもしれない。とは思ったりしませんか?」
「それは無いよ。クロ先輩とサクがうぅんって思うものが名曲になる訳ない」
「そう、ですか。おふたりの感覚を信頼しているんですね」
三人は本当にいい関係が築けているんだなぁ。とうらやましく思っていると大河さんが私の鞄を指さす。
「でも、フミさんのパソコンの中だって本になってない設計図ばっかりだったよ」
「設計図、あぁ、プロットのことですか?」
「そう」
「私の場合はこれはダメだろうと思ったものでも形にしておかないと次のものが思いつかないタイプみたいで。パソコンに入っているテキストデータの大半がそれです」
「その中に名作になるものがあるかも」
「それは無いです」
「自分の感覚を信頼してるってこと?」
「というより、自分が面白いと思えないプロットで作品を書いたとしても面白いものにはならないですから」
「確かに、そうだね」
「そもそも、この職業が自分に向いている訳では無いんですよね。人と働くのが得意じゃないからひとりで出来る仕事の中から何とかなりそうなものを選んだらこうなったんですけれど」
そこで言葉を区切り、彼に目を向ける。
「実際は、何とかなんてなってなくて。何も浮かばなくて真っ白の画面を見つめ続けることもあって」
そこまで話して、何を話しているんだろう。と言葉を止め
「大河さんが音楽をはじめたきっかけは何だったんですか?」
と問いかける。
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