番外編 小説家さんとバンドマンくんのギター

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 私が言った言葉がなぜ皮肉なのか説明することも出来たけれど、きっと言う必要のないことだろう。  そこでふと気になったことがあって初めて入った大河さんの部屋をぐるりと見回すが、自分が肩にかけているギター以外のギターが見当たらない。 「これは、練習用のギターなんですよね?」 「練習用なんて無いけど」 「え?」  彼の言葉を聞いて自分の膝上に乗っているギターをまじまじと見ると確かにそれは大河さんがステージの上で弾いていたのと同じギターだった。 「じゃあ、つまり大事な商売道具を初心者に触らせていたと?」  そのことに気付いたら急に怖くなって壊れものを扱うようにそっと肩にかけているギターのベルトを外し、本体を持ち上げて大河さんに渡す。 「練習辞める?」 「こんな下手くそにいじらせて、音が変になるとか弦がおかしくなったらどうするんですか。大事なものでしょう?」  もう少し考えて行動してください。と訴えかけると彼は膝の上に戻ってきたギターを見てから私のほうに視線を戻す。 「ギターは、まぁ、自分の体の一部だと思うくらいには大事だけど」  そうでしょう。と彼の言葉に相槌を打とうとするがその前に彼が再び口を開いて 「だから、手でしてもらってる時のこととか思いだしちゃうよね」  と言葉を続けるから一瞬頭がまっしろになる。 「ちょ、大河さん?大河さん!自分の、大事な、ギターを、何だと思ってるんですか?」 「体の一部だと思ってるけど」 「そうじゃなくて!」 「心配しなくても弦はどうせ張り換えるし」 「そう、なんですか?」 「そこにあるのが換えの弦」  そう言いながら彼は床に転がっていた紙の包みを手にとって、それを私に手渡す。 「こんなに固い金属の線を自分で何とかできるものなんですか?」  渡された包みの表と裏を確認してからそう問いかけると彼は床に落ちているものをいくつか拾ってテーブルに並べながら 「慣れれば大丈夫」  と答える。
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