小説家さんとバンドマンくんたちの住む家

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「何してるの?」  弟の隣に移動して餅が乗った作業台に向かっている母と大河さんを見ながらそう問いかけるが、すぐには答えが返ってこなくて彼に視線を向けると弟は人が悪そうな笑みを浮かべる。 「兄さん、いい人いるのに隠してるなんてヒドいじゃん」 「イイ、人?」  まさか本当に私の恋人だと言ったんだろうか。不安を感じながらなごやかに母と大福をつくっている大河さんに視線を向けると、突然左手を掴まれる。 「もしかして、これが貰った婚約指輪?」 「えぇ?えぇと、これは」  婚約、婚約って言った?彼がそれを知っているってことは。  返答に困って弟から視線を逸らすが、作業にひと区切りついたのか母が大河さんの元を離れてこちらの会話に加わる。 「文斗、それが大河さんから頂いた指輪?」 「それは、そうだけど」  母に期待のこもったまなざしを向けられて大河さんに助けを求めようと視線を向けるが彼は作業に集中しているようでこちらをちらりとも振り返らない。 「あら、ステキ。私でもこんなのもらったらクラっときちゃうわ」 「いや、これは返そうとしていたんだけど」  指から抜けなくなって。と言うことを伝えようと指輪を引っ張るジェスチャーをするが母はそんなものは見ていなかったようで 「なんてこと言うの」  と言って自分の目元に手をあてる。 「私はあなたを恋人が意を決して渡したものを一度受け取っておきながら返すような子に育てた覚えは無いわ!」 「え?」  母の演技がかった反応に戸惑い、弟のほうに視線を向けるが弟は母の味方のようで 「そうだよ兄さん」  と彼は母に同意する。 「ちょっと待って。ふたりはそれでいいの?」  私も男だし大河さんも男だ。ここに住んでいる訳では無いから近所の目は気にしなくていいとしても家族としては複雑な心境なんじゃないだろうか。  そうならそうだとはっきり言ってもらったほうがいい。そう思って問いかけると母と弟は互いに顔を見合わせたあとに 「だってねぇ」  と言う。
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