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四
じりじりと検非違使は、包囲の輪を縮めてくる。
管狐はとっくの昔にどこかへ退散してしまい、姿は見えない。
包囲の輪を縮める検非違使は無言で、顔の仮面についた双つの目玉がてんでんばらばらの動きをしていた。
しかし、時太郎は検非違使同士の〝声〟を聞いていた。人間とは違う、猛烈な速度で交し合う二進符号の遣り取り。
瞬間、翔一が検非違使の言葉を理解していた。二進符号の圧縮された情報を展開、解読する。
お花が口を開いた。口から流れるのは検非違使の汎用機械語である。それはお花の言葉であり、翔一の言葉であり、時太郎の言葉である。
すでに三人の意識は一つのものになっていた。
──待て! われわれは〈御門〉に用がある。お前たちは時太郎を〈御門〉に連れて行くよう、命令を受けているはず……
お花の〝声〟に検非違使たちは、ぎくりと立ち止まった。ぶるぶると検非違使の手足が細かく痙攣している。
〈御門〉の命令は絶対だが、お花の発した汎用機械語は、さらなる上位の命令語を含んでいた。そのため対立均衡が生じ、手足の動きが麻痺していた。
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