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夜襲
一
かすかな物音に、源二は目を見開いた。がばりと寝床から跳ね上がるように起き上がると、全身を耳にして闇に気配を探る。
取り囲まれている。
起き上がったときには、枕元の太刀を掴んでいる。そろりと足音を忍ばせ、下男小屋の蔀{しとみ}戸を押し上げた。
松明の火明かりが源二の顔をあかあかと照らし出した。屋敷の正門あたりに、無数の明かりが揺れている。
真っ黒な鞣し皮のような顔。半白の髪は源二の年令を表していたが、がっしりと臼のような逞しい顎と、着物から覗く肌は、脂びかりするくらい若々しい。源二はぎょろりと目を見開き、歯をむき出して唸った。
百……いや、もうちょっと多いか。この屋敷を取り囲むには、仰々しいほどの人数である。
ゆっくりと後じさりすると、源二は手早く支度を始めた。太刀を帯にねじこみ、革の半袴を身につける。ちょっと考え、鎖帷子を身につける。すべてが終わると、土間に下りて草鞋の紐をぎゅっと締め上げた。
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