プロローグ

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 しかし最近の車はよく走るものだ、高速道路といっても本当はかなりの上り坂にさしかかっているはずなのに全くパワーダウンしない。よし、もう少し踏み込んでみよう。速度計は100を越えた、エンジンと風の咆哮。  ついに観念し、妻は帽子を頭から膝の上に移した、帽子から開放され風に泳ぐ範子の長い髪が岡原を若き日々の追憶にいざなう。 あの頃の俺達にとって範子はまさしくマドンナだった、仲間同士の喧嘩の原因の80%は彼女をめぐるもので、ツーリングの前の夜は殴り合あいが儀式だった、そして次の日はみんな顔に無数のあざとバンソウコウをつけて、女の子たちとの待ち合わせ場所に行ったものだ。 「みんな、その傷どうしたの?」と女の子の中で事情をよく知っている一人の毎回白々しい質問に対し、本当のことを言っていれば話が早かったのに、「昨日、みんなでラグビーをした」とか「バイクで転んだ」などと言い訳していたので、喧嘩の勝敗に関係なくバイクの後部座席の指定権は毎回女性陣にあった。  しかしどういう訳か、毎回範子は一番最後に無言で、唯一残った俺の後に乗るのだった、ある日女の子の一人の「初めっから、あんたのバイクは範子の指定席だったんだよ。」という一言が俺と範子のきっかけとなった。 息子の友弘もそろそろ車や異性に興味を持ちだす頃であいつがこの車を見ればさぞ羨むことだろう。しかしもう立派な大人なのだから     
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