1-2『メトロポ荘』

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1-2『メトロポ荘』

       ◆  すぐ目の前に、山があんぐりと大口を開けて構えていた。 「こんなところに別荘があるの?」  青は仰ぎながら思わずそう口にする。美姫に導かれるままに街と山を繋ぐ大きな赤い橋を渡り、坂道をしばらく登ったところにある山の入り口に青は立っていた。 「もちろん」と美姫は答える。「びっくりした?」  青の反応は予想していたようで、悪戯に成功した子供のように美姫は勝ち誇った笑みを浮かべている。長靴でくるように、と事前に忠告してきた意味を青はようやく理解した。 「びっくりしたっていうか……予想外すぎる」  別荘とは聞いていたけれど、まさかこんな雪山の中だなんて誰が考えるだろう。青が詳しいことを尋ねても美姫はあまり教えてくれなかったのだ。  ためらうことなく山に入る美姫を追って、青もおそるおそる歩を進める。  ほんの数歩足を踏み入れて左を向いてみると、青はさらに驚いた。  別世界だった。   視界のほとんどが白で埋めつくされ、音のない世界がそこにはあった。  だだっ広く開けた道にはでこぼことした雪が敷き詰められていて、雪肌をまとった、見上げるほど背の高い木々が両側から生い茂り、神秘的ともいえるトンネルを作りあげている。青は白髪の巨大な老人たちに厳めしく見下ろされているような心地がした。『果たしてお前に足を踏み入れる資格はあるのか』と値踏みされているようだ。木々の底からそこここに這い出した笹の葉は、お化け屋敷の無数の青白い手のように道に突きだし、だらんと垂れていて気味が悪い。  時折風が吹いて、木々にこびりついていた雪の塊がはがれ、砕け散りながら視界を白く染めた。前方はゆるやかにカーブをしているせいで道がどこまで続いているのか見当もつかない。  こんなところで二日も過ごせるんだろうか?   青は不安になってきた。前々から泊まりこみの家出をしてみたいと思ってはいたが、中学生という立場からしてそれが難しいことはわかっていた。どこへ行っても身分を証明する必要はあるし、友人の家に泊まりこめば親を通じてばれてしまう。そのため青は今まで家出は日帰りでしか行わなかった。だから内情を知っている美姫から別荘の提供をしてもらえたことは、まさに渡りに船だ。けれど、青はその船が今や泥船のように思えて早くも後悔しかけていた。
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