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美姫はその間に黒く細長い機械のスイッチを入れた。
「それってヒーター?」
「うん。コンセントだけはあるからね、ここ。カーペットも電気カーペットだし、寒ければ電気毛布もあるから使っていいよ。あ、紅茶とコーヒー、どっちがいい?」
「えっと、じゃあ紅茶で」
「オッケー」
美姫は出入り口側の窓に並べてあるペットボトルを一本手にとって、その向かいにある木目調の食器棚らしき小さな棚からステンレス製の片手鍋を持ってきた。それからヒーターの近くにあった黒い台のようなものに鍋を乗せて、水を注いだ。ピッ、と音がしたかと思うと寝ぼけたようなモーター音が唸り始める。
IHだった。クッキングヒーターすら持ちこんでいたことに青は少し驚いた。さりげなくその横に炊飯器も置いてある。鼻歌を歌う美姫の慣れた手つきから、本当にここで生活をしているのがありありと伝わってきた。
「ほんとはお湯を沸かすのにケトルを使いたいのだけれど、荷物をあんまり増やしたくないのよね」
言いながら、美姫は食器棚からとりだした二つのマグカップに紅茶を淹れる。ほんのりとフルーツの甘い香りが部屋に漂った。
「ここの荷物ってどうやって持ってきたの?」
青は周囲を見回しながら尋ねる。
「ソリに積んできたの。何回か往復したからそりゃあ大変だったわ。外の柱にロープと一緒にくくってあるから、もし街で買い物がしたかったら使ってもいいよ」
青はうなづき、淹れてもらった紅茶に口をつけた。ふうと息をつく。ようやく一段落した心地だ。それにしてもここは時間がゆったりと流れているような気がする。時計を探してみると、しかしどこにも見当たらなかった。
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