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「ちょっと不安?」
きょろきょろしていたからか、美姫がそう聞いてくる。ここでの生活のことを言っているのだろう。「少しね」と青は答えた。ここに入るまではものすごく不安だったけれど、この空間のせいなのか、それとも紅茶の甘い匂いのせいなのか、不思議とさっきまでの不安は薄れていた。
「きっと青はこの場所を好きになると思うよ」
と美姫は微笑む。
それはたまに見せるあの独特な、独り言のような口調だった。
その言葉は占い師の予言を連想させ、どうして美姫の発する言葉はこう、深いところからやってくるような感じがするんだろうと青は考えた。不思議ではあるけれど、本当にその通りになるような気がするのだ。
ふと、青は本棚の上に写真立てが置いてあるのを目に止めた。じろじろと見るのは失礼だと思い一度は目を反らしたが、見覚えのある風景が写っていたので今度はまじまじと見た。
「あの写真ーー」
青が指摘すると、美姫は嬉しそうに目を細める。
「気づいた? そう、あの時の写真よ。友達に作ってもらったの」
「わざわざ?」
「気に入ってるの。青とのツーショット写真でもあるしね」
そう言って悪戯っぽく笑う美姫に、青は気恥ずかしくなった。もともとこの写真は青が撮ったものでもあったし、同時に恥ずかしい記憶が蘇ってしまったからだ。そもそもの話、この一枚の写真が始まりだったのだ。美姫に出会ったのも、こうしてバンガローに訪れたことも。
美姫と初めて出会ったのはつい最近のことなのに、こんな人里離れた山の中にいるせいか、青にはあの日のことが昔々の出来事のように思えてならない。
あれは青が、家出先の小樽に行った時のことだった。
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