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2-2『ブラキオサウルス』
◆
「ブラキオサウルスみたいね」
ふいにそう声をかけられて、青はびっくりした。
夕焼け色に染まる小樽の景色を眺めるともなく眺めていたものだから、人の近づく気配には気づけなかった。振り向くと見知らぬ人がいつの間にか立っていて、青はまた驚いた。その人はジーンズジャケットに両手をつっこんでいて、灰色と黒のキャップからは細くて長い後れ毛を儚く揺らしていた。
けれど彼女の視線は青ではなく、遠くのほうを見つめている。『ブラキオサウルス』のほうだ。さっきのは話しかけていたのではなくて、独り言だったんだろうか。青は変な気恥ずかしさと不安を紛らわせるためにそそくさと彼女と同じ方に向き直った。
ブラキオサウルスというのは、あそこにあるクレーンのことだろう。
ちょうど青も同じことを考えていた。四本足で、前には長い首を上に伸ばし、後ろには尻尾までついている。赤と白を基調にした大きなクレーンはまさにブラキオサウルスの形をしていた。彼はその長い首を海に向け、暮れなずむ空を寂しそうに眺めては一人黄昏れているように見えた。
「写真、一枚お願いしてもいいかな」
声に振り向くと、彼女と目が合った。どうやらさっきのは独り言ではなかったらしい。けれどその瞳は澄みきっていて、目が合っているのにどこか遠くを見つめているような感じがした。青は戸惑いつつもうなづく。
「そいじゃあこれね」
と言って渡されたのは携帯電話だった。
彼女は青の隣に並んで、ブラキオサウルスに背を向ける。そこをポジションと決めたらしい。青はいそいそと彼女から離れ、すでにカメラを起動していた携帯電話を構える。
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