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レンズ越しに見ても、やっぱり小樽の海の夕日は綺麗だと思った。
海の見えるこの港は駅からはずいぶんと歩くけれど、どうしてかここは惹かれるものがあった。青が住んでいる東雲町には朝と夜、たまに海霧が流れこんでくるものだから、海に対して親しみを感じているのかもしれない。
空はさっきより赤々としていて、低い雲の底は淡紅色に染まり、夕波がいっそう輝きを増していた。ブラキオサウルスから漂う哀愁は深まるばかりで、その前で彼女は相も変わらずポケットに手を入れて微笑みを浮かべている。
青がカメラを撮り終わると、彼女は「どれどれ」と嬉々として近寄ってきた。上手く撮れたか自信はなかった。そもそも上手く撮ろうという意識さえしたことがない青は、自信などあるわけもなく、情けなくもおずおずと携帯電話を差し出すほかなかった。
彼女は写真を覗きこむと、あはは、と笑った。
「ちょっと指が映ってるね、ここ」
「えっ」
慌てて青が写真を覗きこむーー本当だ! レンズに指がかかっていたのだろう、青の指らしきものが写真の左端にぼやけて写っていた。景色に見とれて気づけなかった。
「ごめんなさい。もう一回撮ります」
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