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2-3『ランチにしましょう』
メトロポ荘があるキャンプ場から少し離れた場所に、中央広場というものがある。そこでランチをしないかと美姫が提案してきた。
彼女があまりにも無邪気に浮き浮きと言ってくるので、提案というよりはほとんど命令に近いと青は思った。断ればしょぼくれる姿が目に浮かんだからだ。こういうところも姉に似ている気がした。
「そいじゃあさっそくお弁当を作りね。腕によりをかけて作るわよ」
いつの間にか制服の上にエプロンをかけていた美姫が腕まくりをする。青は辺りを見回した。
「でも、食材ってどこにあるの? 冷蔵庫は?」
「そっちにあるわ」
青が尋ねると、美姫は後ろの窓を指さした。そこにはさっき使ったいくつかのペットボトルが並んでいるだけだ。青は首を傾げる。
「僕には水しか見えないんだけど」
「窓を開けてごらん」
言われるままに青は窓を開けてみた。
吹きこんできた冷たい風に顔をしかめながら辺りを覗うが、木と雪と向こうに見える他のバンガロー以外は見当たらなかった。しかし、ひょいと視線を下に向けると、青はようやくそれを見つけた。木の窓枠に数本の釘が等間隔に打ちつけられていて、そこからいくつかの袋が下がっているのだった。
青は振り返って美姫のほうを見る。
「もしかして、この中?」
「ピンポン。そこから好きに使っていいわ」
袋はすべてジッパーつきで、大きさも厚さも素材もそれぞれ違っていた。保ちたい温度や食材の種類によって使い分けているらしい。野菜の入っている袋や肉類の入っている袋、小さな袋には調味料が詰まっていた。ちなみに保冷する必要のない調味料や油は食器棚のほうにあるのだとか。
その食器棚はよく見るとダンボールで作られていた。一見して普通の木目調の棚に見えるが、それは壁紙を使っていたからだった。六つほどのダンボールを重ねてから壁紙をぐるっと巻いてひとまとめにして、枠の部分もきちんとコーティングされている。本棚も同様で、美姫のお手製だった。そのほうが持ち運びも楽だし、組み立ても解体も簡単にできるからだという。
「玉ねぎとベーコンもとってちょうだい」
美姫はテーブルの上を片づけてまな板や包丁を用意し、片手鍋でまたお湯を沸かし始めた。コンソメスープを作りたいらしい。
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