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2-4『たしかなもの』
青と美姫は再びコートに身をくるんでメトロポ荘を出発した。
ぼんやりとした朝に比べると日の光は目を覚ましたように強く照っていて、空にはふたひらみひら、白い雲がたなびいている。
青と美姫の雪を踏みしめる音の他には、たまに囀る鳥の声や、日の光で溶けた雪が草木から雪崩れる音のほかはなく、ほぼ無音だ。街では寝静まった夜でさえ車の通る音がするものだから、青には新鮮だった。音のない世界は不思議な心地よさがある。
もともとこの山はレクリエーションの施設として使われているらしく、あちこちに看板が立てられているのを見つけた。夏場になればちらほらと人が訪れるのだろうが、今は人の影すら見当たらない。かわりに狐か狸か、よくわからないが動物の足跡が点々と続いていた。
看板の案内に沿って進んでいくと、やがて開けた場所にでた。
雪をかぶった木のベンチがあちこちに設置されていて、奥には大きな東屋がある。前を歩いていた美姫がくるりと振り返る。
「ここが中央広場よ。あの奥の東屋でランチにしましょう。あそこは見晴らしがいいの」
しかし東屋に屋根はついているものの、壁や扉はないので吹きこんできた雪が中にまんべんなく白くまぶされていた。しかしこんな時のために美姫がシートもちゃんと用意してきたようで、二人並んで腰を掛ける。
「どう、いい眺めでない?」
と美姫が得意顔で言う。
「うん」と青は素直にうなづいた。
前方になだらかな勾配ができているおかげでここからでもかなり遠くまで見渡せた。空も青く、空気も澄んでいて、日に照らされて輝く雪化粧がよく映えている。青は景色を見て気持ちがいいと感じたのは久しぶりだった。
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