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そして予想通り、家には誰もいなかった。
父は仕事へ、母は何かの用事に出かけ、紫は部活に行った後だ。家出をする時に家族と顔を合わせたくはなかったので、そのタイミングを狙った。どちらかといえば顔に出るほうではないけれど、変に見透かされるのが嫌だった。特に青にとって母は要注意人物である。
「今度の冬休みにさ、友達とスキーに行ってこようと思うんだけど、いい?」
泊まりで、と何気なくつけ足して青が聞いた時も、母は最初は驚いた顔をしたが、それからじぃっと青の目を覗きこむようにして見つめてきた。家出を目論んでいる時はなぜか決まって母はそうした。
青はスキー場や泊まる場所、母とあまり縁のない友達の親が連れて行ってくれることなど、事前に調べてきたものを事細かに身振り手振り説明したが、声が上擦っていないか心配だった。
やがて母は一人うなづくと、いつものくしゃっとした笑みを浮かべ、
「いいわよ。ゆっくりしてらっしゃい」
と言った。
姉にも同じように説明したが、こっちは「お土産楽しみだなあ」とだけ返ってきた。紫の場合は暗にお土産を買ってきてほしいと言っているわけではなく、ただ無邪気に思ったことを口に出しているというのを青は知っていた。しかしそれがまた厄介で、これでは何かしらお土産を買ってこなければならなかった。
そして父にはーー青は、父に対しては逆にほとんど説明をしなかった。
「泊まりでスキーに行ってくるから」
これだけだ。父は何かまだ聞きたそうな顔をしたが、青は気づかないふりをした。それから父はいつものおどけた調子に戻り、目には見えない透明なストックを持って両手を振ってみせた。
「あんまり飛ばしすぎるなよ。怪我しちゃ大変だからな」
うはは、と父は笑った。青はぼそぼそと返事をして目を反らした。父が色々な言葉を飲みこんでいるのがわかったからだ。
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