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1-1『クローディアの秘密』
今回青が降り立ったのは、真幌町(まほろちょう)という名前の街だ。
青が住んでいる東雲町の駅と真幌町の駅は隣同士で、青のこれまでの家出先としてはもっとも近い。ホームは木のベンチが置いてあるだけの吹きさらしで、昨日降り積もった雪が日に照らされて少し溶けている。何もないおかげでホームからは町が見渡せた。
木、木、木、山、道、店、木ーー。
町並よりも木々や山のほうがぱっと目に飛びこんでくるようなところだ。
建物や道路はあるにはあるが、そちらこちらに雪で白く染め上がった自然に町が今にも飲みこまれそうな雰囲気がある。青はたまに電車で通りかかるので窓から覗くことは度々あったけれど、こうして地に足をつけて眺めるのは初めてだった。東雲町とはまた違った静けさだな、と青は思った。
『静寂』という漢字に二つの読み方があるということを青は最近知ったが、同じ『静寂』な町でも、東雲町が『せいじゃく』と読むのなら、この真幌町は『しじま』と読んだほうがしっくりくる気がした。
しばらく見入っていた青は、待ち合わせをしていたことを思い出す。膨らんだリュックをよいしょと担ぎ直し、改札口へと向かった。
駅の中はこぢんまりとしていた。うら寂しげに閑古鳥が鳴いている。だから青は、隅のベンチに人が座っているのをすぐに見つけることができた。
彼女は本を読んでいた。少し猫背で、組んだ足をぷらぷらとさせている。
温かそうな白のマフラーに口元を埋め、品のある深緑のコートの下からは地元の高校の制服だろう紺のセーラー服のスカートが覗いている。艶のある黒い髪は無造作に後ろで結んでいるにも拘わらず、妙に様になっていた。茶色の皮のブックカバーをかけているので何を読んでいるのかはわからないが、こちらの存在に気づかないくらいには熱中できるものらしい。
綺麗だな、と青はその横顔を見て素直に思った。
化粧気はなく、血色のいい頬はほんのりと赤い。鼻梁の長い形の整った鼻を持つ彼女は美人とまでいかないまでも、いつか母に見せてもらった、外国のコインに描かれた乙女の横顔に少し似ていた。
高校生ってどうしてこんなに大人びて見えるんだろう、と青はいつも不思議に思う。遠からずなれるもののはずなのに、高校生になっている自分がまるで想像つかない。
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