1-2『メトロポ荘』

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「ついてきて」  と美姫がさっさと歩きだす。青は置いてかれまいと後を追った。  雪の降り積もった道は真ん中だけ除雪されていて、細く狭い道ができている。日の光で少し溶けているのか、ところどころ滑りやすく、青は何度か転びそうになった。手を繋いでてあげよっか、と美姫が冗談めいて言ってきたが、青は断固拒否した。 「ここを歩いているとね、なんだか落ち着くの」  前を歩く美姫は振り向かずに言った。 「この場所にいてもいいって気持ちになるわ」  相づちとも言えない相づちを打ってみたが、青にはその気持ちがよくわからなかった。何せ相変わらず周囲の老木たちが睨みつけてくるような気がしてならない。美姫の声は穏やかだったが、ほんの少し含まれた寂しさのようなものを青は感じとった。  しばらく歩くと、急に開けた場所にでた。 「うわ、ずいぶん広いね」  青が声をあげる。  学校のグラウンドより一回り広い空間がいきなり顔を現したので、青は面食らってしまった。美姫はすぐそばにある木造の大きな建物のほうを指さした。 「そこにあるのがトイレよ。そいで向こうに見える三角屋根が炊事場。本当はこの時期水は止められるんだけど、今は使えるようになってるから安心して」  勝手知ったる我が家のように振る舞う美姫に、青はすぐには理解が追いつかなかった。不安はますます大きくなり、「こっちこっち」と促されるまま美姫の後ろをついていく。  木造のトイレと炊事場の間には木製のテーブルとベンチがぽつぽつと並んでいた。が、今はこんもりと雪が積もっていて使えそうになかった。夏になれば炊事場では肉が焼かれ、大人たちはテーブルで美味しいものに舌鼓を打ち、子供たちは芝の上を駆け回るのだろう。冬のキャンプ場は、夏がくるのを黙して待つよりほかはないとばかりにじっと堪えているようだった。  除雪機で作られただろう小道はややくねりながらもさらにずっと奥まで伸びている。美姫の後ろから覗きこむように前を見てみると、何かが目に入った。
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