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2-1『ようこそ』
「靴はここで脱いでね。土足は厳禁だから」
階段を登って上に開いた入り口の真ん前に、大きめの玄関マットが敷かれていた。その上で美姫は長靴を脱ぎながら青に注意する。青もそれに倣い靴を脱ぐと、美姫は入り口の扉を閉め、靴が並んだままのマットを引きずるようにして扉にかぶせた。こうすることで扉からのすきま風を塞いでいるのだった。
「ようこそ、メトロポ荘へ」
と美姫は手を広げ、恭しくかしこまってみせる。仕草とは裏腹に子供が自分の宝物を見せてくる時のような目の輝きをしていた。青は美姫の手が示すほうーー部屋の中をゆっくりと見渡す。
思いのほか生活感のある部屋だった。
テーブルもあれば本棚もあり、カーペットまで敷かれている。基本的に何も置いてないのがバンガローだと説明されたばかりなので、がらんとしているのかと想像していた。けれど考えてみれば美姫が別荘として使っているのだ、何もないほうが不自然だろう。青からすればむしろコテージに近かった。
電気もつけていないのに部屋がやけに明るいと思ったら、入り口付近の窓とその反対側にある窓のほかに、丸く小さな天窓が四つほど天井についているのを見つけた。
「なんか、お洒落なところだね」
「でしょう? 造りが面白いから気に入っているの」
少し寒いけどね、と美姫は笑った。
「荷物はどこでもいいわ。上着はそこのハンガーにかけてね」
そう言う美姫はすでに上着を脱いで制服姿だった。紺のセーラー服は美姫の雰囲気にとても似合っていると青は思った。
六角形の部屋の上部には出っ張りがあって、バンガローの正面側の窓の近くにいくつかのハンガーがかかっていた。青は部屋の隅に荷物を置くと上着を脱いで、言われたとおりにハンガーにかけた。
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