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オープニング
手ぶらで家出をするというのは、もうその時点で負けている。
青は常々そう考えていた。
後先考えずに家を飛び出したって、子供はお金もなければ車もない。お腹もすくし遠くへも行けないのであれば、近くの公園かどこかでじっとして、探しにやってくる親を待つしかない。友人の家に匿ってもらうという選択肢もあるけれど、それだって友人の親が電話をかけてしまえば水の泡、飛び出した時点で負けは決まってる。
だから青は、いつも計画的に家出をすることにしていた。
後のことも先のこともちゃんと考えて、きちんと準備をしてから慎重に、こっそりと秘密裏に家を出る。それからあらかじめ立てていた計画通りに電車に乗って、遠い目的地へと向かうのだ。この前は苫小牧に行ってきた。その前は小樽。気の向くままに足を運んだ。
「友達と遊んでくる」とだけ家族に伝え、一人遠い地で家出を満喫するのは不思議と開放感があった。それは青が周囲から真面目な子として見られているからなおさらだったのかもしれないが、子供が大人の目を盗んで何かをしでかすのは、大人の目を盗むことそのものに魅力を感じるからだろう。
家出はいつも日帰りだったし、月の小遣いをそれまでに貯めておけば金銭的にも難しくはない。買ってきたスナック菓子を隣で幸せそうに食べる姉の紫(ゆかり)を横目に、青はせっせと倹約した。時々紫が青にせがんでお金を貸してもらう光景は『アリとキリギリスみたいね』と母を笑せた。
家出をする時はだいたいが土日祝日のどれか一日のみだったが、今回は少し違う。待ちに待った冬休みがやってきたからだ。
この長い連休を有意義に利用しようと、青はお金を貯め、計画を立て、こつこつと準備を進めてきた。冬休みは一二月の二二日からだったが、クリスマスと正月は家族と過ごすことになるだろうと考えて、決行の日は一二月二七日にした。つまりは今日だった。
その朝、少し遅くベッドから抜け出した青がリビングへ向かうと、窓からはすでに暖かい日の光が射しこんでいた。絶好の家出日和だと青は思った。階段や廊下は痛々しいほど冷えこんでいたが、リビングはさっきまでヒーターがついていたのか少し肌寒いくらいだった。母が気遣ってか床暖房はつけっぱなしのままだ。
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