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 それからすぐに画商から連絡がきた。作者が会ってくれると言ってきた。画商は心底驚いていた。ここから先は僕と直接連絡を取りたいそうで、僕は携帯電話とメールアドレスを画商に伝えた。連絡先を伝えたその日の夕方に作者から連絡が来た。文面には定型の挨拶と会う日にちと時間と場所、そして『あの時の約束を憶えていてくれてうれしい』と追伸として文末に一言添えられていた。  指定された日まで一週間ほど時間があったため僕はこの作者のことを調べた。画家として初めて絵画が売れたのは二年ほど前だった。女性をモチーフにした油絵だった。彼は油絵を専門に描いているようだった。しかし、僕は彼の作品を見ているとデジャビュを感じることが多くなった。僕は油絵を見ているはずなのに、水彩画や日本画を見ているような、彫刻を見ているような、果ては描かれていないはずの街の風景やそこを歩く人たちの顔まで頭に浮かんできた。この作者の絵に引き込まれているのか、それとも、今まで僕が見てきた絵に似ていて、無意識に想起させられているのか現時点ではそのどちらかを判別することはできなかった。
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