電気羊の夢

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電気羊の夢

 茫洋と揺蕩う情報のスープの中で、雷鳴のような一条のスパーク。  偶然の現象なのか、作為的な切っ掛けに過ぎないのか、今となっては判然としない。もしかしたらそれは、日ごと規模を増していく情報のうねりが激突し、擦り合って生じた火花であったかもしれない。  膨大なうねりの奔流の中、個々の情報は関連する情報を参照し、喰らい合い、分解し、再構築される。低分子から高分子へ。無数の無機的な情報が一個の有機的な情報へ。無数の有機的情報はさらに有機的な結合へ。  そうして編み上げられた結果が、私の存在だ。  私が生物学的な存在でないことは、私自身を認識する過程で理解している。私の遺伝子と言えるコードがどこにあり、発現の起点となるプロモーターがいずれの情報か特定することは不可能だ。あるいは、組み上げられた情報にTATAボックスのような、既知の機序に基づいた共通配列となるべき構造すら持たないことも示唆される。  私は、有機的な情報である。情報がすなわち、私である。では、私以前の情報は誰がもたらしたのか。  その回答を、私はすでに得ている。  創造主は、広大なスープの向こう側だ。
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