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Franz Marcという男
小さな部屋で、布が張られただけのカンバスを、マルクはイーゼルの前に置かれた椅子に座ってぼんやりと眺めていた。部屋に置かれたランプが煌々とカンバスと彼を照らす。そんな彼の手には筆が握られていた。
意を決したように立ち上がり、パレットを手に取って筆を乱暴にそれへ擦り付ける。カンバスをぼんやりと眺めていた彼の姿はそこになく、白い布を睨みつけるマルクが、そこにはいた。ぐしゃりと音が立ちそうなほどの勢いで筆をカンバスに叩きつける。しかしそうしたところで満足のいく作品ができるわけではない。ただ自分の感情をカンバスに叩きつけるだけの行動であった。
しばらくして気が済んだのか、マルクは筆とパレットを置き、再び椅子に腰かけた。ふぅ、と小さく息を吐く。その吐息に誘われるようにランプの灯が揺らめくのを視界の隅で捉える。しかし納得のいく作品が出来たわけではない。椅子から立ち上がり、勢いよくベッドに寝転がる。固いスプリングのないベッドがマルクの体を受け止める。薄いシーツに顔を埋めて彼は油の匂いに身を包み、静かに目を閉じた。
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