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しかしその幸せを邪魔するかのように、芸術に対する非難は二人に降りかかった。同年冬、二人は新芸術家協会第三回展へ向けての出品審査を受けていた。しかしカンディンスキーの巨大なカンバスに描かれた『Composition V』の結果は出品拒否。物質から精神を解放し、自らの「内的必然性」に従う抽象画を、協会は拒否したのだ。今まで穏やかに対処してきたカンディンスキーも、今回ばかりは納得いかず、新芸術家協会のメンバーと対立することになった。そして頭ごなしに否定するメンバーとはもう分かり合えないと判断し、カンディンスキーは脱会してしまった。以前から自分たちに対する協会内での風当たりの強さに苛立ちや理不尽さを感じていたマルクは一つ返事でカンディンスキーについて行き、彼もまた一年と少しで協会を脱会することとなった。
「信じられません」
「そうだな」
いつもは穏やかに返事をくれて、余裕を見せているカンディンスキーの表情には、怒りの色が見えた。言葉も素っ気ない。いつかこうなることはわかっていた。それが今日だっただけの話だ。
「……すまない、マルク。今日は一人にしてくれ。マリアにもよろしく頼む」
マルクを一瞥することもなく、ただそれだけを声に出す。
「いや……いいんです。そういう時なんでしょう。またいつでもいらしてください。僕とマリアは、いつでもあなたを歓迎します」
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