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父の言うことなど、自分の創り上げた虚像に過ぎない、自分には才能があるはずだ。彼は自らを鼓舞するも、やはり何をやっても上手くいかない。無意識のように描き続けるカンバスの絵もどこか暗い。この世の中が暗闇に沈んでいってしまったような暗さだ。マルクは何かに取り憑かれたようにひたすらカンバスに向き合った。
そして完成した絵はやはりと言うべきか、酷く暗い。地に伏したような自身が反映されているようであった。明るい色など、白以外には存在しない。まるで自分の叫びのようだな、とマルクは他人事のように思った。しかしこのような絵でも、今彼が描き上げた最高の物である。これだけが、今の彼にできることのような気がしていた。
長期に渡るパリ滞在を経て、二年が経った。その間、マルクは様々な絵画を見続けた。そこで出会ったうち、彼の心を動かしたのはゴッホの絵であった。彼の絵を見た瞬間、マルクの全身に衝撃が走る。頭から雷を受けたような、そんな気分になった。
それからすぐ、マルクはドイツへと帰国することになる。
「さよなら、芸術の街」
汽車に乗りながらマルクは考えた。自分がパリで得たものは大きい。自分に抱えられるほどのものかとも悩んだりはしたが、結局その大きなものを彼は全てその身に、その腕にその目に宿していた。
「これからは自由な動物を描こう」
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