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これこそが自分の望んだ世界であると、マルクは全身で感じていた。『Horse in a landscape』の誕生である。
◆ ◇ ◆
『Horse in a landscape』を完成させた一九一〇年の夏。マルクは新芸術家協会の第二回展覧会へと訪れていた。前々から気になっていた芸術派の展覧会だ。よく人は彼らの芸術を馬鹿にすると聞いていたが、マルクは決して馬鹿になどしなかった。パリで活躍する画家の前衛的な作品を、人々は激しく非難した。なぜ描きたいように描いたものを非難されなければならないのか、そもそも芸術とは自由な存在ではなかったのか。マルクは人々の前衛作品に対しての扱いにひどく憤っていた。
「こんなにも素晴らしい作品ばかりじゃないか」
人がほとんどいないような広く閑散としたアパートのワンルームを使い切った画廊。大きなカンバスを前にしたマルクは誰にともなく呟いた。いつまででもこの空間で、この作品達を眺めていたい、そんな気持ちになっていた。この静かな空間で、カンバスの中にだけ流れる違う空気に漂っていたいとさえ思う。しっかりとこの景色を目に焼き付けておこう、そう考えてカンバスの前に立ち続けた。
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