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そうして何十分、何時間経っただろうか。真上にあった太陽は西へ傾き、山間に沈みかけていた。しかし窓を遮っている画廊で、マルクはやはりそんなことにも気付かずにいた。
「君は、この絵をどう思う?」
ある一枚のカンバスの前に立っていた時、不意に後ろから肩に手を置かれ、はっとしてマルクは振り返った。そこには眼鏡をかけた男が立っていて、マルクはその人物を認めたと同時に再度カンバスと向き合った。『Group in Crinolines』『ワシリー・カンディンスキー』並んで書かれたその文字になるほど、と斜め後ろに立つ男に意識を持ちつつも彼は口を開いた。
「そうですね、一言で言えば、…稚拙な言葉ではありますが、素晴らしい作品かと。今までに僕が出会ってきた絵画とは違い、全くの抽象で、荒々しいタッチの中の優しさが垣間見えるようです。色遣いも華やかで幻想的だ。だけども幻想的だと終わらせるにはもったいないですね。…女性に黄色を使っていることから…、あなたも色彩論をご存じで?」
振り返り眼鏡の奥にある目をじっと見つめる。男は驚いたように目を見開いてから、ふと笑みを浮かべた。
「知っているよ、あれこそが素晴らしい理論だ。…君、名前は?」
握手を求める彼にマルクはすぐさま答える。
「マルク。フランツ・マルクです。…カンディンスキーさん」
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