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若者が小屋を出ると、男は私の傍に座った。
「あなたもここでよくわからないことを調べているのですか」
「いや、私はここの長を務めている」
男はニコリともせず、愛想なく続けた。
「傷も癒えた頃だろう。準備を整え次第、村を出て行って欲しい」
「急な話をされますね」
「まもなく冬季だ。雪が降ると山は閉ざされ越えられなくなる。その前に出て行くことだ。先ほどの若者をつけてもいい」
「ここで冬を越させてもらうことは難しいですかね」
「必要な荷物はこちらでまとめておく」
取りつく島もない物言いだったが、あまり事を荒立てたくはなかった。
「……わかりました。ただ、心配なことが」
「何かね」
「ここに住む人たちは、冬を越せるのでしょうか」
「……問題ない」
「しかし、見た所十分な蓄えがあるわけでもなく、人々の生活も質素極まる。とてもじゃないが冬支度をしているようには見えない」
「問題ない、と言った」
「それに」
「失礼だが、あなたは自分の心配をしたほうがいい。ここまで自力で来たというからわかると思うが、その足で山越えするには気力が必要だ」
「やっぱりわかっているじゃないですか」
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