クリトゥルヌスのぶどう酒

3/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「そのために村の者を一人出すのだ。申し訳ないが、これ以上我々のことに首をつっこまないでもらいたい」 「もし必要なら、救援を呼ぶこともできますが」 「ダメだ!」  突然の大声に、私は男の顔を見た。  よく見ると、男の口の周りには丸く囲むように爛れた痕があるようだった。 「今日にでも出て行ってくれ。誰かに手伝わせる」  男は話を切り上げ、 「間もなく収穫祭がある。クリトゥルヌス様の御心に、心配は不要だ」  最後にそう呟いて、小屋を出て行った。  収穫祭? クリトゥルヌス? これから本格的な冬だというのに、一体何の収穫を祝うというのだろう。  手元には、食事に差し出された木の実と真っ赤なぶどう酒。 「またこれか」  ここで看病されて以来、少量の木の実など添え物ですらなく、毎食このぶどう酒だけを飲んでいる状態だった。だからこそ蓄えが乏しいと考えていたのだが、もしかしたら私だけがこの食事なのかもしれない。  木の実をかじり、ぶどう酒を飲む。それでも私が不満を言わなかったのは、ぶどう酒を飲み干す頃には、不思議と満足感を覚えるからだった。     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!