クリトゥルヌスのぶどう酒

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 木の実は近隣の山々で採れたものだろう。手入れはされていない山に見えたが、どこかに収穫する場所があるのかも知れない。だが、このぶどう酒についてはそれでは説明がつかない。部外者にすら毎食提供できる程の量を確保するには、十分な収穫量と然るべき設備が必要だ。  食料に優先してぶどう酒を作ることの意味が、私にはわからない。何よりも、このぶどう酒はとりわけ味が良い。ここに住む全員分の食料を賄う金など容易く生み出せる、これだけで一つの産業とできるくらいには。  その後程なくして、私の荷物をまとめた若者が戻って来た。 「急がせちゃって悪いね先生」  黒い歯を見せ、彼は笑った。
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