クリトゥルヌスのぶどう酒

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 にわかに親子が進み出て、何事かをミトラと話していた。  ミトラが頷くと、親子は肉塊に近づき、母親が管の端を切り落とし子供に直接咥えさせた。ごくりごくりと喉を鳴らして、子供はぶどう酒を、否、肉塊の体液を飲み下す。ある程度子供が飲み終えると、親子は去っていった。 「では、あなたの番だ」  私の顔を撫で続けていた管が、私の口に吸い付いた。  体液を流し込まれるわけではない。何かが、私の中から出ていく。嘔吐にも似た不快感を感じながら見上げると、緑色の肉塊は所々が石灰色に壊死していた。さらに円錐の頂点から、赤い体液が流れ落ちてきている。体液はみるみるうちに量を増し、徐々に徐々に頂点が裂け、中から形の歪な黄色い肉塊が排出されようとしていた。  人々の熱狂的な祈りがこだまし、甘ったるい匂いが辺りを包み、それらすべてが松明によって暖色に染め上げられていた。  朦朧とする意識の中、ミトラが私に近づいて言った。 「これがクリトゥルヌス様の収穫祭だ。毎年12月25日、クリトゥルヌス様が再度降誕なされるための儀式。今年からはコラクスを、と考えていたが仕方がない」 「安心してくれ、それで死ぬようなことにはならない。口の周りは爛れるがね」  赤と白で彩色された緑色の円錐の頂点に、歪な黄色の肉塊が鎮座していた。 「ようこそ新しい私たちの家族よ。歓迎しよう、先生」  端的に言って、そこは貧しさしか生まれ得ない環境だった。  しかしそれでも、人々は祈りを止めなかった。約束された恩恵があるから、人々は祈り続けることができるのだ。  自分たちが何に祈っているのかは、問題ではない。  彼らは幸せで、そこは楽園に違いなかった。
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