5・顛末

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「宮本珠樹は中学生の時から8年間ほど一度療養所に入院していました。精神病院ってやつです。そこで元々の病気が改善されるどころか、悪化してしまったのですよねぇ」  興味深い話を切り出した和久井警部補に広志は身を乗り出す。 「どうしてですか?」 「それが、事件として記録に残っていました」 「へ?」ますます分からない。 「病院内の性的虐待が明るみになったんですわ」  和久井警部補は細い目をチラッと広志に向ける。 「・・・!」 「入浴をさせる係がいましてね、それも男ですよ。やっぱり危険だから力のある男性がその係を担っていたのでしょうね。ところが蓋を開ければ、珠樹はその男に長年に渡り性的虐待を受けていたことが分かったんです」 「あぁ・・・」  それで珠樹が浴室に妙な執着を見せていたのかも知れないと思う広志。 「内容も記録にありましたが、おぞましくてね。珠樹は一度妊娠しています。流産もさせられていました。風呂場で・・・。これで分かるでしょ?」 「そんな・・・!」  衝撃の事実だった。様々なことが繋がった。手紙の内容、浴室の猫、そして「血の海」という言葉。 「もちろん犯人は検挙されましたし、その病院もこれをきっかけに閉鎖にまで追い込まれたんですよ・・・。宮本珠樹も被害者だったんです」  遠くを見つめるような眼差しを向けると、和久井警部補は煙草の火を揉み消した。  広志は犯罪被害者たちの末路を知ったような気がした。綾も珠樹も多感な時期に受けた心と体の痛みをその後もずっと持ち続けていた。綾はそのトラウマから脱しようと努力をした。珠樹はそのまま精神崩壊に至った。身勝手な大人の欲望のために人生が狂わされたのだ。しかしその犯人たちも過去を辿るとどのような人生を歩んで来たのだろうか。そこに至るのに然るべき原因があったのではないだろうか。簡単に犯罪は悪、直ちに刑罰とは言えない人間の持つ闇を感じていた。
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