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吊り下がった古いランプが、飴色に濡れたような店内を黄昏に沈ませている。 ガラスの灰皿からくゆるタバコの煙をゆっくり逆にたどると、いつのまにか灰が長くなって、今まさにぽとりと灰皿の中に堪えきれなくなったように落ちた。 そのタバコを手にして、大樹は深く肺に吸った。 殺伐とした苦味が重く広がる。 味わうように、低めの真紅のベルベットなソファにのけぞるように天井を仰いで、大きく吐き出した。 なにもかも吐き出してこのタバコの煙のように空気に霧散して、二度と戻らない。 自分もそうなれたら、どんなに楽だろうと思えた。 頼んでいたブラックのコーヒーが冷めていくのを静かに眺めていると、斜向かいの席にウエイターが足音もなく近づき、テーブルにコーヒーを置くのが見えた。 大樹に背中を見せている客の女性は、軽くウエイターに会釈している。 ウエイターが立ち去る間もなく、その女性は、おもむろにテーブルの隅に置かれたシュガーポットを開けた。 そして、手をのばして、一つ。二つ。三つ。四つ。 四角い砂糖を規則正しい儀式のように繰り返してコーヒーに落とした。 苦味と酸味と香りを楽しむコーヒーが、砂糖の甘さ一色に染まる。 それは、ある種の毒だ。     
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