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大樹は手元に運ばれてきたばかりのジョッキをあげて、かちん、と和歌のグラスを軽く合わせた。 そのまま口をつけて喉に流し込む。 できればあまり話をしたくはない。 それでも営業職のクセのように、大樹の口からは和歌の近況を訪ねる当たり障りのない問いかけが滑るように出た。 そうすると、その話題が尽きるのが怖くなった。 沈黙が怖くなった。 沈黙が連れてくる、和歌の向こうに佇む面影が怖くなった。 だから和歌との間に沈黙が落ちそうになるたびに、生ビールを流し込んだ。 同時に、和歌の養護教諭としての仕事や人生観の話を聞いているうちに、なぜ和歌が自分のそばに来たのかということも気になった。 和歌ほど、彼女との破局までの道筋を知っている人間は、この場にいない。 「……生田先輩、ピッチ早すぎますよ」 何杯目かの生ビールを頼もうとした時、それまで今どきの高校生事情を話していた和歌がさりげなくたしなめた。 いくら酒が強いといっても限度はある。 大樹は酔いがまわり、高揚と自暴自棄が入り混じった気分で、店員に向けていた体をぐるりと和歌の方に回転させた。 「なあ和歌っち。実は、浅葱にオレの様子さぐれとか言われたりしてないよね?」 へらっとした笑いが一緒にこぼれた。 和歌が口に運びかけたサワーのグラスを一瞬とめた。     
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